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内館牧子『終わった人』感想

★★★★★

定年って生前葬だな。

本書はそんな一文から始まる。タイトル自体も『なぜ終わったのか』と言うフックで気になるものだったが、僕が手にとったのはハードカバー版で裏表紙にはイラストがあるだけ。あらすじが全く見えない。そこで1ページ目を見てみればそんな始まり方だったので『お、これは珍しい』と読み進めていった。もうここまででお気づきかと思うが、本書は定年退職した男性を主人公に据えた物語だ。

大手銀行の出世コースから子会社に出向、転籍させられそのまま定年を迎えた田代壮介。仕事一筋だった彼は途方に暮れた。妻は夫との旅行などに乗り気ではない。「まだ俺は成仏していない。どんな仕事でもいいから働きたい」と職探しをするが、取り立てて特技もない定年後の男に職などそうない。生き甲斐を求め、居場所を探して、惑い、あがき続ける男に再生の時は訪れるのか?ある人物との出会いが、彼の運命の歯車を回す―。

彼は良い高校を出て、良い大学、良い会社、良い役職と言う、世間が理想とするキャリアを着実に歩いてきた。そして、会社のために尽くしてきた。仕事を第一としてきた。そんな人が定年した後の絶望たるや筆舌に尽くしがたい。

彼は定年後も必死に何か生きがい、と言うよりもやることを求めて奔走する。この小説は前編・後編と分けられるのではないかと思うくらいに『やることが見つからない状態』と『やることを見つけた状態』が良いコントラストになっている。とりわけ前編の『やることが見つからない状態』の心理描写・言動行動はたまらなく良かった。

僕も主人公と同様に昔から趣味と言える趣味がほぼなく、いわば『やることが見つからない状態』で、さらに悪いことに仕事に対する情熱もそんなにない。本書の言葉を借りれば、『若くない』んだろう。そんな状態が長く続いてきたもんだから何か解消のヒントになるキッカケがあればなぁなんて思ってかなりじっくり読んだ。結果なかったんですけれどもね。

でも、いくらやることを見つけられようが、どんなエリートコースを歩こうが、何があろうが、結局ほとんどの人は定年時には横一直線になり、やがて死に行くと言うことを再三述べられていて、その再確認にはなった。

僕は中学・高校時代とMr.childrenを狂ったように聴いていたが、その中の『タイムマシーンに乗って』と言う曲が大好きだった時期がある(多分僕の趣味が一番尖っていた時期)。その曲の中に『人生はアドベンチャー。たとえ踏み外しても結局楽しんだ人が笑者です』と言う一節がある。読んでいる時にふと思い出して懐かしい気持ちにさせられた。結局楽しんだもんが笑って生を送れる。まぁその楽しむもんが見つからずに僕は困っている訳なんだけれども。

また、一応ヒューマンドラマであるため、『仕事』だけでなく『結婚』とか『恋』も主題の一つなんだけど、その中でさすがは女性作家とも言えるべき事実だなぁみたいなセリフもあった。

親父はすぐ誤解するけどさ、かけがえのない人ってのは、『友達としてみている人』のことだからね。『男としてみている人』っていうのは、簡単に代わりが出てきたりするからさ、かけがえなくないんだよ。

これをもっと短く言い換えたものもあった。

男と女になれば、十年も二十年ももつ関係が、半年や一年で終わります。

う〜ん、確かに〜。耳が痛い。

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